事実は小説より奇なり

"Mitsuizumi Show_ryu's Novel" 蜜泉彰竜の小説

第2話  常識と非常識 ―みたて―

「秋は夕暮れ。夕日の差して山の端いと近うなりたるに、・・・

日入りはてて、

風の音、虫のねなど、はたいふべきにあらず。 」 -枕草子 清少納言-

 

夕日が沈み、低くなった雲に残光が差し、

照り映えた光景が

そよ風で波立つ海面にもう一つ。

その何とも言えない情景が心に浮かび、

東シナ海に面した土地で過ごしたその頃のことを思い出した。

 

 

そこは東の果ての国の、本土南西端で、訪れる者の心をつかむ

時間帯と空間をもっていた。

貿易港として栄えた時期もあり、遡れば神話時代から

文化を育んできた要衝でもあったところだ。

 

その時分はまだ多数の国々があり、

大国が世界の西端から東へと移り行く

幕開けの時代であった。

 

 

その年の暮れ、廃れ気味の大国は

再帰を果たした大統領の選挙勝利に

いつになく賑わっていた。

 

よその国の首脳選挙にもかかわらず、

その結果は他国の一部の民衆をも歓喜させた。

 

その感情を理解できるかできないかで、

違う世界に生きているかのように、

人々の、世の中の見方がかけ離れていた。

 

それはまるで、

トリックアート(隠し絵・だまし絵)になった様で、

見る者には老婆に、また一方には若い女性に

見えるほどの違いがあっただろう。

それゆえ、今までの常識で暮らしてきたものには、

他国の大統領の現行に共感を示す一部の人達を、

まるで気違いでも見る様に拒絶的な反応を

示すものも少なからずいただろう。

 

それはある意味仕方がないことだった。

それはまさしく既知外なことだったのだから。

 

だけど次第に、知らずにいた世の中の別の顔を見つけた人々の、

驚き様はひとかたならないものがあった。

 

その姿があらわになってきた兆しは、

その頃標準的に使われていた紀年法で、

西暦2015年前後だったような気がする。

 

大国初の女性元首の誕生が謳われ、

盛り上がりが出来ていた頃、

当の本人の健康状態が懸念されていた。

 

ネットでは、気を失いでもしたのか、

崩れ落ちながら脇の者に支えられて

車に押し込められる動画が拡散されていた。

 

しかし、年齢を重ね老いを感じさせていたその女性は、

大統領選挙クライマックスでは、見事に復活。

一連の騒動がなかったかの如くエネルギッシュに躍動し

若返った姿で熱弁をふるった。

 

リアルタイムに流れたその映像は、

まるで映画を見ているかのような錯覚と、違和感を覚えた。

 

 「ダブル」

 

 影武者を起用したのだろうとSNSでは陰謀説が広まった。

 

その頃の常識では受けいれ難い話題だったが、

背の高さこそ違えど、そのことを裏付けるそっくりな二人が並ぶ、

写真が掲載された書籍も出版されていたし、

 

国家機密の漏洩の不始末騒動を起こしたにもかかわらず、

大統領就任に不可解なほどの執念を燃やしていた彼女に対し、

 

その国内では、「彼女を投獄せよ、泥沼をかき出せ」という、

 

民衆の叫びがあった。

 

 

 

 

 

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気づいていた。

だが術がない。

 

どうすれば、世の中と共有できるというのか。

道具はあるが、どれだけ叫び続ければ、情報の渦に巻き込まれず

受けいれられていくのだろうか。

 

そもそも勇気がないのだ。

非常識を常識として受取ってもらうということは

大変な労力がいることだろう。

 

そんな思いを抱きながら、

一歩を踏み出せず悶々と過ごしていた。

 

そのころの私は、自分の世話をするだけで

精一杯の暮らしだった。

 

                                                      -続-